(そして帰って来た日本納豆)
「納豆のはなし」によると、江戸の町は納豆売りの声で目覚めたとのこと。気短な江戸っ子は、納豆売りの声を耳にすると、炊きたてのご飯を納豆で食べたいと、納豆売りを呼び止め「オウ、一つくんねえ」、辛子もかきたてで、とびきり辛いのを添えさせて、さっさっと食べ、さっと朝湯へとでかけてゆくと描写しています。
またご丁寧に美食家の北大路魯山人翁に「納豆の食べかた」を、披露させています;「納豆を器に出して、なにも加えないで、二本の箸でよくねりまぜる。そうすると納豆の糸が多くなる。蓮から出る糸のようなものがふえてきて、かたくてねりにくくなってくる。この糸を出せば出すほど納豆は美味しく成るからである。不精しないでまた手間を惜しまず極力ねりかえすべきである。かたくねり上げたら醤油を数滴落としてまたねる。また醤油数滴を落としてねる。要するにほんの少し醤油をかけてはねる事を繰り返し、糸のすがたがなくなってどろどろになった納豆に辛子を入れてよく撹拌する。この時、好みによって薬味を少量混和すると一段と味が強くなって美味しい。納豆はこうして食べるべきものである」と、もうここまで極めますと「納豆道」になってしまう。
さて私はというと、左手の握り箸で納豆を食べています。生来が左利きなのでナイフや金槌などの小道具は左手を使うことから、納豆をねる時にも箸を「ねり棒」の小道具にしていたようです。中学生頃になって箸を、家では左、外では右手に使い分けていたのですが、納豆だけは自然に左手で食べていました。自分でも可笑しくなるのですが「三つ子の魂百までも」で、納豆は左握り箸でないと食べられないのです。先日も久しぶりに外ではどんなものかと思いたって、ホテルニューオータニの和朝食の時に納豆を特注し試してみたのですが、気がつくといつの間にか右手から左握り箸に持ちかえていました(>_<)でも、今ではこんな幼児のような不器用な食べ方をする自分が可愛くなっています。
過去に一度だけ家内から「左握り箸でガツガツ食べないで、もっとゆっくりちゃんと食べなさいよ」と言われたことがありました。たいした言でないのに、なぜかこの一言が私の逆鱗にふれてしまい反射的に、「うるさい!これが俺の納豆の食べかただ。小さい時からこうして食べてて、いまに始まったことでない。もう納豆を食わない!」と、箸とお碗をテープルにドンと置いて席を立ったことがありました。それ以来、我が家の卓上から納豆が消えたことがありましたが、2、3年ほどして糸に引かれて納豆がまた卓上に帰ってきました。
我が家の「そして帰って来た日本納豆」です。
納豆で 夫婦のなかも ねばねばと (了)
納豆の食べかた
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