04. 地の巻

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(下から地水火風空)

地の巻 クンバハカ法 


 <五輪の礎石>

 クンバハカは天風五輪書の基礎をなす礎石です。日常生活の基本姿勢です。
 母なる大地に両足を踏まえ、肩の力を抜き、肛門を締め、下腹に気を込めることでクンバハカ体勢になります。

 クンバハカは人生を活きてゆく上でたいへん心強い味方です。私たちの感覚や感情は外界から刹那刹那に絶え間なくいろいろなストレスを受けています。クンバハカはこうしたストレスから心身を守り穏やかな心を維持させてくれます。男性なら武士の帯刀であり、女性なら護身の懐刀で、今風に言えば心身の守るガードマンです。
 
私は家族の者に天風哲理を押し売りしていませんが、「肛門を締め、肩の力を抜いておけ」とだけは折りあるごとに繰り返し言い聞かせています。この身構えさえできていれば、とりあえず世の中を渡って行けるからです。誰のものでもない自分のかけがいのない心身なのですから、これくらいの姿勢は面倒がらずに習得しましょう。


 <なぜクンバハカが必要なのか>

 物質文明と情報化時代に生きている私たちは、新聞やテレビのマスメディアやインターネットから、世界各地で起きた衝撃的な映像や異常気象の報道が流れてきて、私たちの心を暗くしたり不安にしています。
 一方、身近な日常生活でも将来に対する漠然とした不安を感じています。家庭内の諸問題、仕事上の問題や人間関係からくるストレスがで情緒が不安定にさせられています。最近の都市部における心身症や鬱病患者が増え、毎年三万人を越える自殺者が不安定な社会を如実に物語っています。精神疾患は国民の五大疾患になっています。
 しかし、私たちはこうした外界からの衝撃や刺激を避けて通ることができません。もし外界から押し寄せてくるこうした衝撃や刺激に対して、なにも身構えもせず無防備に引き受けていたら生命エネルギーが消耗してしまい、ついには悲しむべき価値なき消極的な人生が生まれてしまいます。
 いったん神経が過敏になりますと、たとえ小さな刺激でも神経が過剰反応して脳に伝えられパニック状況に陥ってしまいます。そしてどんなに幸福に恵まれていても、恵まれていると思えなくなります。気持ちが萎えてしまい、花を見ても、月を見ても、何を見ても人生を楽しもうという気になれません。見るもの聞くものすべて心配や取り越し苦労の種になってしまいます。
 しかし、多くの人は神経過敏になると人生にどれほどの不幸をもたらすか知りませんし考えもしません。考えないという以前に気がついていません。そして神経過敏が当たり前のように思い込んで過ごしています。
 こうしたストレス過剰な不安定の時代に生きて行くには、心を防御するなんらかの対策が必要になってきます。外界から衝撃や刺戟が襲っても心を維持できる身構えが必要になってきます。
 これらの身構えとしてクンバハカがあります。

 毎日の生活を通して恐ろしいことや、腹の立つこと、心配なことなどで感情や感覚に刺激を感じたら、瞬時に肛門を締め上げ、下腹に力を込め、肩の力を抜き、クンバハカ体勢をとります。そうすることで心に衝撃を与える隙間を防ぎ、外界から刺激を感じても神経系統への影響を最小限にくいとめることができます。クンバハカをすることで感覚や感情にくるストレスを、心に正しく受け入れて脳神経に行く動揺を緩和させます。
 外界からきた衝撃を、正面からまともに受けていたらたまりませんので、瞬時にクンバハカして身構えますと、外部からの衝撃が緩和され最小限ですみます。大きな衝撃が来てもそれにぶつかりさえしなければよいわけですから、ド〜ンときたら、サッと軽くいなすことです。剣の極意にあるよう切り込んでくる大刀を、風三寸で受け流す技と同じようにすることです。

 天風哲人は「新幹線の列車にまともにぶつかれば粉々になるが、瞬時にひょいと身をかわせば、列車はすう〜と横を通り過ぎてしまう。結局は相手にしなければいいのだ」と言っています。 
 このようにクンバハカすることで感情や感覚が安定して、何事にも冷静な対応ができるようになりますから、有事に際しても虚心平気に行動ができます。

 
自分の心は自分で守らなければなりません。それがわずか肛門を締め、肩の力を抜き、下腹に気をこめることで簡単にできてしまうのですから有り難いことです。
 しかし、誠に惜しむらくは多くの人がこれほど簡単な自己防衛法を、いまだ知らずに過ごしていることです。クンバハカを実行している人と、していない人とでは、その後の人生に大きな違いが生じてきます。肩の力を抜き、肛門を締めて、下腹に気を込める、たったこれだけのことですから、やる気になりさえすれば誰にでもできます。誰の心でもない自分の心ですから、理屈は後回しにして先ずはクンバハカ一番です。

 <クンバハカ法>

 心と体をつないでいる神経系統は、末端に向かいますと体の神経系統につながり、中枢に行きますと脳神経につながり、心身全体に大きな影響を与えています。神経を「神の経路」とは、実にうまい表現です。
 この神経系統が外界からの強い衝撃より感覚や感情に刺激を受けたら、瞬時に;

  肛門をグッと締め上げ、
  肩の力を抜き、
  下腹に気をこめる。
  
 瞬時にこの三位一体の動作を同時に行うのがクンバハカです。クンバハカは神経系統が外界から受けた衝撃を、緩和させ、調節して心と体の安定を維持させます。
*肛門を締めることで、仙骨神経の安定。
*丹田の気を込めることで、腹腔神経の安定。
*肩の力を抜いておろすことで横隔膜神経を安定し活力を充実させます。

 クンバハカは自律神経の交感神経と副交感神経のバランスをはかり安定させますから、「神経反射の調節法」とも称しています。交感神経と副交感神経のバランスの乱れが万病の元になりますので、クンバハカがいかに重要かが理解できます。


 
初心者向けの練習法のコツとして、両手の小指を丸めて締めると肛門が締まり肩の力が抜けます。同時に両足の親指を締めると下腹に気がこもります。
 この方法がだんだんに熟練してきますと、手の小指か、足の親指の一本でも軽く締まっていれば、無意識のうちにクンバハカが持続でき、寝ている間でもこの姿勢なってきます。

 
日常生活のなかでクンバハカを習慣化させるよい方法として、折あるごとに、時あるごとに、クンバハカの姿勢で腹式呼吸をすることです。腹式呼吸は先ず肺の中の汚れたガスを出すことから始めます。肛門を締め、肩を落とし、口から息を「フ〜フッフッフッ」と吐き出し、出し切ったところで肛門をグッと締め、肩を落とし鼻から息を吸い込みます。今度はいっぱい吸い込んだ時点でまた下腹にグッと力を入れ、そのままの姿勢で口から息を出します。この腹式呼吸を常に繰り返えし習慣かさせて行きます。
 生きているかぎり呼吸をしなければならないのですから、面倒がらずに実行することを勧めます。朝から晩まで、寝ている間も腹式呼吸で過ごしていますと、いざという有事の時、特に意識しなくても自然にクンバハカ体勢ができるようになります。

 尚、腹式呼吸をクンバハカと平行して行うので「天風式呼吸法(プラナマヤ法)」と言われています。
 腹式呼吸の習得にドローイン方式で腹横筋を強化しますと、よりよくクンバハカに入いることができます。
 ドローインの関しましては、第5部「天風師の面影」に記載した「
クンバハカ法再考」と、2014年2月「腹式呼吸、ドローイング」、5月「プラナヤマ法」を参考してください。

 また常日頃からクンバハカの練習を心がけ、ちょいとした立つ時にも、電車やバスに乗る時も、降りる時も、歩いている時も、クンバハカの姿勢で行うようにします。仕事中でも折にふれこの体勢でやるようにしていきますと、ついには何時でもどこでも臨機応変にクンバハカができるようになります。そうしますと常に落ちついた気分になり、感情を制御することができ、これまでのようにやたらと感情や感覚に引きずり回されるようなことが少なくなります。

  クンバハカには「自然クンバハカ」、「相対クンバハカ」、「絶対クンバハカ」の姿勢があります。
 クンバハカ体勢が習慣化されてきますと特に意識しなくても、寝ている間でも肛門と下腹が三分ほどに軽く締まった「自然クンバハカ」になってきます。
また、通常に生活をして普通に呼吸している時は、肛門と下腹が 六分から八分ほど締まった「相対クンバハカ」の体勢になってきます。

 
そして外界から突然に大きな衝撃を受けた時や、危機的な有事の際、瞬時に肛門がグッと締まり、肩に力が抜け、下腹に気がこもりグッと息を止めた「絶対クンバハカ」の体勢で身構えるようになります。
  そうしますと地震などの有事の時でも心の動揺を鎮め安定を維持し、冷静な行動ができるようになり。さらに生死に関わる非常時には「絶対クンバハカ」をして、眉を見開いてすこし上げて、眉間に意識を集中させますと虚心平気に行動することができ、危機一髪の生死の境から奇跡的に助かることにもなります。
 クンバハカの練習で最初のうちはクンバハカを忘れてしまい、肛門が締まってないことに気づきましたらすぐに締めるようにします。肛門がゆるんでいて「しまった」と思ったら、気にせずにすぐ締めればよいわけです。初めはなかなか思うように行きませんが、折りあるごとに練習を繰り返えすことで習慣化してきます。
 方法は単純ですが、何時でもどこでもいざという時、瞬時にこの体勢をとれるまでには、やはり3ヶ月から半年の練習が必要となります。


 <クンハハカの由来>
 
 クンバハカとは古典サンスクリット語で「聖なる体勢、満たされた状態」をいいます。もともとはヨーガの修行者が、難行苦行に耐え得る体を造るために創意された行法です。
 クンバハカは自分で会得しないかぎり、たとえ師であれ親兄弟であっても伝授できない密法とされてきました。自分で会得しない限り言葉で教えることに限界があるからだと思います。ヨーガではこの姿勢を「壷の中へ水をいっぱい入れた状態」と表現しています。
 わが国でも古くから「止気の法」と称し、生命エネルギーである気が体外に出てしまうのを防ぐ法として武芸者や僧侶の間で普及していました。肛門がゆるむことで気が削がれると認識されていました。
  今日でもスポーツ選手は厳しい練習を繰り返すなかでこの方法を自然にマスターしています。相撲のシコ踏みもこれかと思います。筋肉の疲労が限界にきても、クンバハカをすることでさらに20%ほどパワーアップすると言われています。またミュージシャンも発声練習の過程でこの方法をマスターしていると思います。でなければあの声量はでてきません。

  天風哲人はかつて悪性の肺結核を患い死に逝く絶望の旅路で、ヨーガの聖者と奇遇の縁を得てヒマラヤ山麓ヨーガ里へ行き、命がけの厳しい修行に入りました。それから3年間にわたり生死をかけた難行苦行に取り組みクンバハカ法を会得して奇跡的に命の甦りを果たしました。このあたりの物語は大井満著「ヨーガに生きる」(春秋社)に詳しく記されています。
 命の再生を果たして日本へ帰国した後、なぜクンバハカをすることで命の甦りができたのか、医学と心理学の方面から分析し、探求に探求を重ねてクンバハカが神経反射の調節に最も効果的な方法であると確信に至りました。

 しかし、たとえどんなに効果的な方法であっても、人々の命を救うためにヒマラヤ山麓のヨーガ里に連れて行って修行させるわけにゆきません。またそこへ行ったからとて誰れもが会得できるものでありません。それに一般の人にとってはヨーガの修行が目的でなく健康が目的なのですから、なにも秘伝などともったいながらず、ヨーガの里で修行しなくても、あれほどの難行苦行をしなくても、日本に居ながらにして誰もが簡単に会得できる方法はないものかと、さらなる探求を重ね、こうした探求の中から創意されたのが「天風式クンバハカ法」と称するものです。
 極めて優れた創意なのですが、方法があまりに簡単なため、ついつい軽視して実行がおろそかになったりしますが、真理はいつもシンプルなものです。ここで私がくどくど説明するまでもなく先ず実行です。肉体は正直なものですからクンバカハを実行すれば絶大なる効果がそれを実証します。

 以下、私のことながら、、

 「何としても怒り悲しみ怖れを抑制する事の出来ない時は、
  そういう時こそクンバハカ密法の修練に最も都合のよい
  時であるから、一段と真剣に実行するがよい」 (天風)
 私は毎日がクンバハカの実習でしていつもこの姿勢を心がけています。そして「これは有事になるかな」、「これはいかんな」、「これは危ないぞ」と感じた時、瞬時にクンバハカ体勢で身構えることができるようになっています。
 そうしますとたいていの場合、肩の力が抜けて、下腹に気がこもり、頭へ昇りかけた血の気がスーと引けて、冷静に対応できるようになっています。

 練習法はすでに書きましたが、その他にも散歩しいている時に腹式呼吸をしながら、肛門を締める練習をしています。また電車に立ったままで乗っている時や シャワーをしている時など、つま先立ちのままで踵を床につけずに小さく上下運動しますと肛門がグッグッと締まってきます。これは私が立っている時に実行している練習法ですが、過去に一度だけ失敗した経験があります。飛行機のトイレの前で順番待ちの時間を利用してこの上下運動 をしていましたら、私の前に並んでいた数人がトイレを譲ってくれました。小用をたしながら「なんてみないい人なのだ、なんでかな〜」と考え、ふと思い至りました。それからというものトイレの前ではやらぬようにしています。

 <補記:拙書「心を建て直す」から>

 
 2011年3月11日、突然に襲った東日本大地震は、私たちの心を大きく揺さぶりました。大地震と津波は恐怖感というガレキを心の中に残しました。多くの人は絶え間なく続く余震の中で何時また大地震がくるのかとビクビクしながら生活していました。
 そのうえマスコミや週刊誌は恐怖感をさらに煽り、明日にでもまた大地震がくるかのように書きたてました。こうした風潮が強いストレスとなり私たちの心身に悪い影響を与えています。
 私の知人にも地震の恐怖から神経過敏症になってしまい、小さな余震にも怯えていますし、不眠症に悩んでいる人や、狭い部屋に一人で寝ることができなくなった人、洋服を着たまま寝ている人もいました。

 そのうえ大津波の災害による福島原子力発電所からの放射能のニュースは、私たちの元気を萎えさせています。放射能は目に見えないのでかえって妄想をかりたて不安感を増幅させています。こうした風評放射能被害で多くの人の心まで汚染されてしまわぬことを願うばかりです。
 私たちの毎日がこんな恐怖感や不安感のストレスでしたら、たまったものでありません。心理学的にみても恐怖感や不安感はいろいろな神経障害をもたらしています。こうした恐怖感ほど人生に害を及ぼすものもありません。
 しかし、いったん恐怖感や不安感におちいった人に「怖れるな」と言ったところで説得力がありません。恐れうろたえている心理状況の時に言葉は無力です。私は「こうした時にこそクンバハカです」と言いかけて、今は無理かと思いとどまり口ごもっています。
  イエス・キリストは「恐れるなかれ、恐れたことは汝の身にふりかかる」と説いています。聖書に「恐れるな」という言葉が366回もでてきます。恐れとはそれほどよくないことなのです。しかし理屈ではそうわかっていてもやはり恐いものは恐いわけです。現実に起こってしまった恐怖感は説教や説得に耳をかしません。

 さりとて科学的に地震の構造を解明し予知できたとしても、科学で地震を防ぐことはできません。また神仏に地震が来ないように祈ってみても来る時には来ます。科学でも、宗教でも、いわんや政治では地震を止められず、私たちの恐怖感や不安感を解消することができません。しかし、このままではいったん怯えてしまった心は救われません。ではどうしたらよいのでしょう。このまま恐怖感と不安感を宿命として受け入れ消極的に生活してゆくことが地震大国、日本の行く道なのでしょうか。
 否、私はここでクンバハカをお勧したく思います。
 現実の問題は、現実でしか対処できません。東日本大震災からの復興には、先ずガレキを撤去し、防波堤を築くことが必要になります。心の復興にも心の中のガレキを除去し、防波堤を築くことが必要になります。地震にも揺れず、津波にも流されない、強い心の防波堤を建設することが必要になってきます。
 その心の強化の第一歩が、クンバハカとなります。 

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コメント(2)

私のやり方が間違っていたようです。クンバハカをやってみました。一生懸命やりました。しかし、頭痛がするようになり、神経に異常をきたすようになりました。肩がすごく凝ります。肩を落とす、が、力が入っているようにおもわれます。お腹に力を入れるのも、よくわかりません。力むとかいきむ、とはちがうのでしょうか。また、連続して5百回ぐらいしてみました。ちょっとマズかったと思っています。いまいちどくわしくおしえていただけませんでしょうか。

拝復 貴重な質問をどうもです。「私考:クンバハカ法」を、天風師の面影の欄に書いておきました。こちらを参考にしてみてください。ご健勝のほどを。
http://www.tempu-online.com/essay/2016/12/post-55.html

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